こんにちは。
zuka(@beginaid)です。
本記事はコラムシリーズの1つになります。他のコラム記事は「コラム」カテゴリーページをご覧ください。
今回は,スキーヤーが混乱しやすい内傾ついて説明するぞい!
滑りがカッコいい人ってたしかに傾いているけど,内傾ってそのこと?
半分合ってるが,半分間違えじゃ。初心者はどうしてもシルエットに捉われがちじゃが,重要なのは身体・板・雪面の関係じゃ。滑り姿だけでスキーを学ぶと大変なことになるぞ。
今日の博士,なんか怖い…
ターンの目的
突然ですが,スキーヤーはなぜターンをするのでしょうか。「爽快感があるから」「方向を調整するため」などが考えられますが,1番重要なターンの目的は「スピードをコントロールするため」です。
そして,ターンを物理的に成功させるために内傾が必要なのです。ここで,物理的に成功させるというのは「系の力がつりあった状態」とすることにします。簡単に言えば,安定している状態です。詳しくは,こちらのコラムをご覧ください。
さて,今回は内傾の必要性の話でしたね。先ほどのリンク先では,スキーヤーが内傾の度合いによって「ターン弧の深さ」「雪面からの抗力」「雪を削る量」を調節できことを説明しています。ここでは,スキー教程の言葉を使って理解してみましょう。
- 静的内傾維持
-
ターンの成功に必要な内傾を維持し続けること
- 動的内傾促進
-
ターンの成功に必要な内傾に加えてその度合いを変化させることによりターン弧の深さ・雪面からの抗力・雪面を削り取る量を調節すること
スピードをコントロールするためには,静的内傾維持と動的内傾促進を駆使する必要があります。語弊を恐れずに言うならば,低速度域・レジャースキーでは静的内傾維持,高速度域・競技スキーでは動的内傾促進を利用します。両方とも「正しい」操作になります。
スキーヤーに働く力
滑走中のスキーヤーには,「重力」「遠心力」「雪面からの抗力」がはたらきます。このうち,重力は常に地球の中心向き,遠心力はターンの外側向きの力になります。詳しくは,こちらのコラムをご覧ください。本記事では,3次元のうち遠心力方向のつり合いを考えます。遠心力に対してバランスを取るために,スキーヤーは内傾します。
内傾の定義
そもそも,内傾の定義とはどのようなものなのでしょうか。以下はスキー教程の定義です。
ターンポジションを取ったときに下肢の傾きと同じ角度に構えること。
出典先:[1]
少し分かりにくいですね。まず下肢の傾きの定義が不明瞭で,何を指しているのかが不明です。そもそも脛の傾きと腿の傾きは異なります。そこで,本記事では3つの軸とそれに対応する角度をもとに内傾を定義します。なお,以下の定義は当サイト独自のものであることをご了承ください。
ターン中のスキーヤーの1場面を切り出して考えてみます。当然ながら,このスキーヤーはコケていませので,力のつり合いが保たれています。
このスキーヤーに対して,遠心力方向のつり合いを考えるために,斜面下側からみた場合を考えます。そこで,3つの軸と角度を定義します。
軸$A$はエッジから垂直に伸びた軸であり,角度$a$は軸$A$が雪面の垂直面となす角度です。軸$B$は外脚が雪と接している部分と腰の中心を結んだ軸であり,角度$b$は軸$B$が雪面の垂直面となす角度です。軸$B$と角度$b$は理想のポジションを考える上での基準になります。軸$C$は外脚が雪と接している部分と頭の中心を結んだ軸であり,角度$c$は軸$C$が雪面の垂直面となす角度です。
- 角度$a$:軸$A$(エッジ)の角度
- 角度$b$:軸$B$(外脚と腰の中心)の角度
- 角度$c$:軸$C$(外脚と頭の中心)の角度
雪面に対して直立したときの軸$B$を$B_0$,角度$b$を$b_0$とします。つまり,直立時につり合う基準となる角度が$b_0$ということです。
ここで内傾とは「角度$b>b_0$」である状態と定義します。つまり,内傾は字面通り「内に傾いている状態」を指します。
さて,このときの角度$c$を改めて$c_0$とおきましょう。
このとき,内倒は「角度$c>c_0$」である状態と定義します。
これらの角度・軸は,ターンの局面によって異なります。ターンの局面によって系に加わる外力が異なるからです。ちなみに,軸Bは内肩を通るのが理想的だとされています。ただし,シルエットファーストになるのではなく,しっかりと外力とのつり合いを保つという点で内傾を利用するという観点が大切になります。
このように,内傾・内倒はターン中の場面場面でそれぞれ変わってくる概念で,遠心力方向のつり合いを保つための運動であるということになります。つり合いを保つ中で,その状態を維持し続けるのが静的内傾維持,深いターン弧を表現するために積極的に内傾を利用して板をたわませる運動をするのが動的内傾促進ということになります。
内傾の必要性
今度は,内傾が必要な理由を遠心力・重力方向の2次元で考えてみましょう。重力は垂直方向にはたらきますが,トルクとしては水平方向の軸に対してはたらきます。同様に,遠心力は水平方向にはたらきますがトルクとしては垂直方向の軸に対してにはたらきます。
さて,内傾をする目的は「大きくなる遠心力につりあうような重心位置に移動するため」です。内傾は,上図で左・下に移動する量が多ければ多いほど深くなります。
回転運動をする物体に対しては,同じ系に乗って考えるとその物体には遠心力がはたらきます。遠心力$F$は速度$v$の二乗に比例し,回転半径$r$に反比例します。質量$m$のスキーヤーは,斜面滑っていくと速度$v$が増しますので,その分遠心力$F$も大きくなります。
\begin{align}
F &= m\frac{v^2}{r}
\end{align}
また,スキーヤーはターン弧を深くすることでスピードをコントロールするのでした。
すると,ターン弧(回転半径)が小さくなるために遠心力はさらに増すことになります。
同時に,内傾することで角度$a$も大きくなりますので,雪面からの抗力を得やすい方向にエッジングを強くする働きもあります。雪面に食い込ませる方向にエッジングを強めることで,より強い力で雪面からの力を受けることができます。
結果的に,スピードをコントロールするためには内傾することが必要になるということです。
まとめ
お疲れさまじゃ!内傾の必要性は理解できたかい?
うん!でも内倒って言葉もでてきて混乱しちゃたよ…。
内倒についてはまた後で詳しく解説するぞい。とりあえず,今回は内傾が「安定性維持のために必要」であり「ターンをコントロールするために」利用されることが分かれば十分じゃ!
今日盛りだくさんすぎない…?
[1] 日本スキー教程, 山と渓谷社, 2018.
[2] スキーの科学とスノーボードの科学, 岡部, 2017.
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