かつての昔から多くの議論がなされてきたスキー指導法ですが,今日では日本スキー教程がスキー指導の展開を発表しています。日本スキー教程によると,スキーのターン性能・スキーヤーの運動特性・自然/斜面/地形の特性・アルペンスキー競技規則等を考慮・実践していく指導法だとされています。
そこで,この記事では日本スキー教程[1]の指導法を簡単にまとめていきたいと思います。スキー指導に関する記事は,以下のページにまとめてあります。
今回は, スキーのためのトレーニングについてお話しするぞい。
トレーニングか!少し興味ある!
スキーはシーズンスポーツじゃ。オフシーズンの時間の方が長いからこそ,雪上以外でのトレーニングが重要になってくるのじゃ。
スキー障害
まずは,スキーで起こりやすいケガや故障に関してみていくことで「ケガの防止」という観点からトレーニングをみていきます。ケガが起こるということは,トレーニング不足であることを意味する場合もありますので,大切な観点です。
外傷と障害
短時間に大きな力が作用して起こるケガを「外傷」と呼びます。一方,同じ力が繰り返し作用して起こるケガを「障害」と呼びます。スキーにおいては外傷の割合が多く,昔は下腿・股関節の骨折/人体損傷などが多かったのですが,最近では膝の靭帯損傷が増えています。膝の靭帯損傷が増えている原因についてはいまだに解明されていませんが,カービングスキーの発達という点は有力候補だと思います。また,MRI技術の進歩なども指摘されています。スキーの「障害」としては腰痛が最も大きな問題でしょう。腰痛に関しては,体幹部分をトレーニングすることである程度の予防をすることができます。
ACL(膝前十字靭帯損傷)の発生メカニズム
古賀英之による文献 [3] では,比較的有名なビデオ解析の文献[4]を参考にしながら,ACL損傷のメカニズムを解析しています。Oslo Sports Trauma Research Centerと共同で行なった研究で,ACL損傷の20判例を文献 [4] を参考にして「Slip-catch」「Dynamic snowplow」「Landing back-weighted」「Hyperextension」「ER/valgus」「ER/deep flexion」の6つに分類しています。「Slip-catch」と「Dynamic snowplow」は以前に報告されていた受傷メカニズムとは明らかに異なるという点で古賀らによる研究は意義があります。
Slip-catch
Slip-catchがACL受傷メカニズムの半数を占めています。Slip catchは,外スキーのコンタクトを失った後に,外スキーが接地して急激なグリップを取り戻すことで膝が「外反・内旋」することで靭帯が損傷してしまうというメカニズムです。ここでは「X脚方向・内股方向」に急激に動いてしまうことが原因になっています。
教程中では,外反角度と内旋角度の変化を示したうえで,プルークターンは外反角度が大きいものの怪我には至っておらず,急激なグリップを模したエッジングの内旋角度の変化が大きいことから,「(特に内旋)角度の急激な変化」が問題を起こす原因であると指摘しています。
Dynamic snowplow
メカニズムはSlip-catchとほぼ同じなのですが,Dynamic snowplowでは外スキーではなく内スキーが原因となって内足を受傷します。snowplowは「ボーゲン」を意味しています。途中でボーゲンのような姿勢になることが由来になっています。
Landing back-weighted
Landing back-weightedは「後傾での着地」を表しています。このメカニズムは以前から指摘されているもので,対策としては「無理に起き上がろうとしない」ことが挙げられます。膝に最も負担をかけるのは90度屈曲した状態だと言われており,後傾で着地して無理に起き上がろうとすると必要以上に膝に負担がかかってしまい,ACL受傷原因となってしまいます。
Hyperextension
文献[4]中では,セーフティーネットに突っ込んだ際に,膝が過度に伸ばされて受傷したとしています。状況が特殊であるため,教程中では言及されていません。
ER/valgus
ERはExternal Rotationの頭文字を取ったもので「外旋」を意味します。つまり,ER/valgusは膝の外旋が原因となって受傷した場合を指します。教程では言及がありません。
ER/deep flexion
「deep flexion」は「深い屈曲」を指しています。ER/valgusのように膝の外旋だけでなく,そこに膝を深く曲げる状態が組み合わさったものが「ER/deep flexion」です。教程では言及がありませんでした。
スキーに必要なトレーニング要素
スキーのトレーニングで身につけるべき3要素は,「瞬発力」「筋持久力」「全身持久力」です。一般スキーヤーは,まず全身持久力を訓練すべきとされています。アルペンスキーにおいては「瞬発力:筋持久力:全身持久力=20%:40%:40%」とされています。(1984年の報告)
トレーニング
スキーのトレーニングとしては,とにかく「正しい身体の使い方をする」ことを意識しましょう。例えば,スクワットをするにしても,腰が外れていたりつま先が外を向いていたりしてしまえば,それはスキーに繋がる身体の動きとは言えません。むしろ身体のバランスを悪化させてしまう場合もあります。
実際のトレーニングメニューに関しては,私自身以下の書籍を参考にして体幹トレーニング(深層筋)やウェイトトレーニング(グローバル筋)を鍛えるようにしています。
まとめ
今回は,スキー傷害とトレーニングについてお話ししたぞい。
写真を見せられると生々しすぎて鳥肌が立つよー。
ビデオ解析したグループも同じ思いじゃろう。研究が進んでいくおかげで我々も正しい予防法を身につけることができるのじゃ。研究者には感謝しなくてはならないぞい。
[1] ”日本スキー教程.” 山と渓谷社(2018)
[2] ”スキーの科学とスノーボードの科学.” 岡部(2017)
[3] 古賀英之, and 宗田大. "アルペンスキーにおける ACL 損傷頻度, メカニズム, 予防: 国際スキー連盟の取り組み (特集 競技特性からみた前十字靱帯損傷: 競技復帰に向けたアプローチ)." 臨床スポーツ医学 31.11 (2014): 1082-1087.
[4] Bere, Tone, et al. "Mechanisms of anterior cruciate ligament injury in World Cup alpine skiing: a systematic video analysis of 20 cases." The American journal of sports medicine 39.7 (2011): 1421-1429.
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