かつての昔から多くの議論がなされてきたスキー指導法ですが,今日では日本スキー教程がスキー指導の展開を発表しています。日本スキー教程によると,スキーのターン性能・スキーヤーの運動特性・自然/斜面/地形の特性・アルペンスキー競技規則等を考慮・実践していく指導法だとされています。
そこで,この記事では日本スキー教程[1]の指導法を簡単にまとめていきたいと思います。スキー指導に関する記事は,以下のページにまとめてあります。
今回は,山岳スキーに関するトピックをまとめていくぞい。
スキーの魅力は計り知れない!
バックカントリーは非常に魅力的な一方で,常に危険が内在していることを知らねばならぬぞい。
言葉の危険性
昔からコース外や自然の中で楽しむしキーは山岳スキーと呼ばれていました。最近では,バックカントリーとも言われるようになり,SNSの普及に伴ってスタイリッシュなイメージが先行しています。
そんな背景の中で,バックカントリーは「サイドカントリー」「スラックカントリー」などと言われるようになっています。本来であれば,山岳スキーというリスクの内在するスキーの楽しみ方であったものが,あたかも「片手間に楽しむもの」というような言葉で置き換えられてしまっているのです。山岳スキーはそんな甘ったるいものではありません。
バウンダリーを超える意味
スキー場のバウンダリー(管理区の境界線)を超えることは,以下のようなことを意味しています。
- 救助体制が整っていない
- 身に起こったことは自己責任
- 時にはルール違反に抵触する
山岳スキーの基本
- まずは地形を考慮した計画
- 装備の用意
- 登山届の提出
- セルフレスキュー&コンパニオンレスキュー
- ビバーグ
- 基礎知識&基本技術
- 行動原則
山岳スキーを行う上では,まず最初に地形を下調べして綿密な計画を立てる必要があります。視覚で得られる情報が必ずしも正しいとは限らないからです。前方には何も無いように見えても,実は雪庇("ひさし"のようにせり出した積雪)やツリーウェル(樹木の傍に空いた深い穴)があったり,雪質が急に変化していたりする可能性があります。同時に,日射や気温に関しても調べる必要があります。
風は風速1mで体感温度を約1度下げると言われています。また,高度が100m上がるごとに気温は約0.6度下がります。風の方向もある程度決まっています。例えば,沢筋(低くなっている場所)では沢に沿って風が吹き,尾根筋(高くなっている場所)では尾根に対して垂直方向に風が吹くことが多いです。また,高気圧下では昼間は谷から山に向かって風が吹き,夜間は山から谷に向かって風が吹きます。これは,気温が高い空気ほど上昇しやすい現象を理解すれば分かります。昼間は谷側の空気が温められ,夜間は放射冷却で山側の空気が相対的に温かくなります。「霧」の定義は,水蒸気の凝結により視界が1km未満になる気象状況です。
バックカントリーでは,基本的にレイヤリング(重ね着)によって体温調節を行います。また,アイゼン(爪がついた登山靴)やロープ,アンカー(ロープを引っ掛ける道具)を用意することは必須です。さらに,単独の行動は避けて,複数の仲間とともに楽しむようにしましょう。登山届の提出をしておくことで,いざというときの捜索や救助が早まる場合があります。「72時間の壁」と言われるように,救助が遅くなればなるほど助かる可能性は低くなってしまいます。そのため,基本は自分で助かろうと努力することが大切です。次に,二次災害を防止しながら仲間同士で助け合うコンパニオンレスキューを考えます。
ビバーグとは,登山やキャンプなどで緊急的に野宿することを指す言葉ですが,山岳スキーにおいては「雪洞を作って緊急避難すること」を指します。いざというときのために,自分でビバーグする訓練をしておくべきでしょう。ストックはクロスして支えにすると良い,などという基礎知識や基本技術を身につけておくことも大切です。また,ビーコンのチェックを行うことや,無謀なやり方を避けることが明記された行動原則(文献 [2] p.141)を確かめておくと安心です。
装備
簡単に山岳スキーで使われる装備を確認します。BCはバックカントリーを表します。ビーコンは全世界共通の457Hzの電波を用いて埋没者を探し出すための機械です。プローブは埋没者の位置を特定するための棒です。ショベルはスコップですね。
- パウダーリング
- 新雪でも埋まりにくいストックのリング
- シール
- ソール面に装着する滑り止め防止具
- スノーシュー・アイゼン
- シールを使わない場合の登山具
- ビーコン・プローブ・ショベル
- BCの三種の神器
- ビーニー
- ニット帽
- バラクラバ
- フェイスマスク
- ハーネス
- 体とロープを繋げるもの
- カラビナ
- 金属リング
- ツェルト
- 小型軽量テント
雪崩
雪崩の危険性は,以下のような式で表されます。
雪崩リスク=雪崩ハザード×曝露×脆弱性
雪崩ハザード=破壊の規模×誘発の可能性
ここからは国立環境研究所を参考にします。雪崩ハザートは極端に暑い日,強い台風,豪雨の頻度などを指します。曝露はハザードの大きな場所に人が存在していること,脆弱性はハザートに関する適応能力の低さを表します。
多くの雪崩事故は,雪崩ハザードが中程度の時に起こっています。ということは,曝露や脆弱性が原因となっている場合が多いということです。これはつまり,当事者たちの準備不足や知識の欠如によって雪崩事故が起きていることを意味します。人的要因は極力取り除きたいです。雪崩は,以下のように分類されます。
- 表層or全層
- 面or点
- 乾雪or湿雪
点発生雪崩(スラフ)は,結合力の弱い雪で発生する雪崩です。乾雪でも湿雪でも発生します。一方,多くの雪崩は積雪内の弱層・層境界の結合が壊れて発生する面発生雪崩(スラブ)に分類されます。面発生雪崩は以下のような種類があります。
- ストームラブ
- まとまった降雪の後に新雪内や新雪と旧雪の境界で破壊が起こり発生
- ウィンドスラブ
- 風下に再分配された雪により形成
- 持続型スラブ
- 積雪内に持続型弱層が存在することで誘発の可能性が継続しているスラブ
- ディープスラブ
- 積雪内の深い部分に持続型スラブが形成
持続的弱層とは,雪粒の結合強度がゆっくりとしか上昇しない種類の雪によって,積雪内に弱層が形成された層のことを指します。雪崩の発生は「自然的発生」と「人為的発生」に分けられます。また,雪崩の速度は乾雪で50〜200km/h,湿雪で20〜100km/hとなります。
雪崩ハザード評価は,手に入る情報からどの程度の刺激で雪崩を誘発するのかを推測する作業です。主に「気象要素」「積雪内部の情報」「明らかな不安定性を示す直接証拠」です。初心者にも判断しやすい不安定性としては,例えば新しい雪崩や暴風,急激な気温情報などがあります。実際に,雪崩埋没者を救助する際の手順は以下の通りです。
- シグナルサーチ
- 埋没者の電波を探す
- コースサーチ
- 3mほどまで位置を絞り込む
- ファインサーチ
- さらに位置を絞り込む
- ピンポイントサーチ
- 位置を特定する
「マイクロストリップサーチ」はファインサーチの方法です。コの字で進んでいく捜索方法です。掘り出しの際は「コンベアベルト・メソッド」を利用します。V字状に人員を配置して,ローテーションしながら後方に雪を掻き出します。
まとめ
今回は,山岳スキーに関するアレコレを確認したぞい。
雪崩って絶望的やん…。
人的要因が多いというのは驚きじゃな。救命講習でも言えることじゃが,常日頃からいかに当事者意識を持てるかが大切な命を守るカギじゃ。
[1] ”日本スキー教程.” 山と渓谷社(2018)
[2] ”資格検定受検者のために.” 山と渓谷社(2019)
[3] ”教育本部オフィシャルブック2020.” 山と渓谷社(2019)
[4] 国立環境研究所
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